認知症って?

認知症の患者さんの数は年々増加傾向です。また、認知症が原因と思われる自動車事故のニュースが増えており、皆さんの関心が増している疾患だと思います。

はじめに

認知症には、色々なタイプがあります。
大部分の方は、アルツハイマー型認知症です。その中でも、穏やかに活動性が低下していくタイプが大半を占めるといわれます。
昔はテレビや新聞をみたのに最近は全く見ようとしない、ボーとして1日を過ごしている、といった方です。
僕は、高齢者というと縁側に座ってボーとする御婆ちゃんが目に浮かびますが、このイメージは日本人に多いアルツハイマー型認知症だろうと思います。

アルツハイマー型認知症を理解する上でのキーワードは、①記憶の棚がバラバラになっている、②取り繕う、です。そして認知症患者さんの行動を理解するためにはイマジネーションが重要です。

①記憶の棚がバラバラ

アルツハイマー型認知症になると、新しい記憶形成ができません
自分を自分として理解するものは何でしょうか?
私は会社員で、月曜日~金曜日まで仕事に行く、昨日は月曜日だった、じゃあ今日も仕事だ、結婚をして子供がいる、と人間を作っているものは記憶です。
認知症の方は、この人間を形作る新しい記憶ができません。
進んでいくと、記憶を管理している書庫が滅茶滅茶になっていきます。
そうすると、より強い記憶や、偶然にも頭の中の近くにある記憶の書庫の中のイメージに引っ張られます

「以前に経験した記憶がよみがえり、その記憶が自分を支配している」のを想像してください。現実か夢か分からないような精神です。
例えば、小学生の時の記憶がよみがえってきたとします。
”あれ、ここは家ではない。どこだ!家に帰りたい”と外出をします(徘徊)
”お母さん”と、お嫁さんのことを呼びます。
”なんで皆小学生の私に対して御婆ちゃんっていうの!”と怒ります(易怒性)
”あ~私はなに?どこにいるのよ!”と不穏になります。
夢と現実がわからなくなり、色々なものが見えたり聞こえたり(幻覚)。

多くの方は、若いころに記憶に引っ張られます。おそらく、若年者の記憶の方が強いからでしょう。そうすると、認知症の方にとって、周囲の方は自分の親のように見えてしまいます。
自分の親だと思って話をしている人に、”おばあちゃん、しっかりしてね、変なことばかり言わないの!”と怒られることをイメージしてください。
どうなりますか?
ほとんどの方は発狂すると思います。
認知症の方とお話をするときは、イマジネーションが重要です。今はこんな心理状態なのかな、何歳ころの記憶に引っ張られているのかなと思うと、穏やかに話ができます。
介護をしている方は毎日が戦場なので、穏やかにしましょうね、といわれても困ってしまうと思います。患者さんは新規の記憶形成がないので、イライラしたら数分離れることが大事です。数分後に戻ってみると、きっと忘れています。

②取り繕う

アルツハイマー型認知症では、取り繕うのも重要な所見です。
分からないことがあっても、決して分からないとは言いません。

僕は認知症の方に必ずご年齢を聞きます。
アルツハイマー型認知症の方は、”う~ん、そうね、ねえ、何歳かしらね”と周囲の方に意見を求め、誰かが話してくれるのを待っています。
年齢なんて言いたくないわ、と誤魔化すことも多いです。
一方で、他のタイプの認知症は、”なんでそんなことを聞くのか?答える必要はない!”とか”年齢ってなんだ?”といった反応を示します。

取り繕いは厄介です。
うまく誤魔化すため、よほど認知症が進行しないと、周囲からは認知症と理解されません。高齢ドライバーの問題はここにあると思っています。

認知症を疑ったら、何気なく、”お父さん、この前の誕生日で何歳になったの?”と聞いてみてください。2歳以上離れていたら、認知症の可能性が高いですよ。さらに誤魔化したら、アルツハイマー型認知症の可能性が高いです。
クリニックを受診していただき、ご相談しましょう。

※家族に対しては、阿吽の呼吸があるため取り繕いやすいです。そのため、家族には話しやすく、怒鳴りやすくなります。一方で、他人に対しては、取り繕い、良いところを見せようとするので、急におとなしい穏やかな方になります。
人と話すと穏やかなのに、家族に対しては横柄で、より介護が大変になります。
この場合、第三者に介護に入ってもらうのが良く、介護サービスを積極的に使いましょう。

※認知症で理性がなくなるので、元々怒りやすい人はより一層怒ります。以前の性格が二回りくらい悪くなると思った方が良いです。