訪問診療① 序-2

訪問診療の歴史を少し記載しました。

システムとして無い状態から、システムの立ち上げ、悪い業者など。それから大きく変化をしていきます。

④訪問診療の大改革のちょっと手前~失敗した改革

朝日新聞が連日のように施設訪問診療で悪い稼ぎ方をしていると報じます。それを受けて国が動きました。

施設の診療報酬を一律に1/4くらいに減らしました。

僕の勤務をしていた医療機関も、この大きな変化に飲まれます。

月の収入が3000万円くらいあった診療報酬が、一気に800万円になります。

悪い医療機関があったことへのペナルティですが、急激な変化になりました。

これでは維持ができません。そこでクリニックは職員の人数を減らすことになります。これをきっかけに、僕も転職をしました。

この改定には問題がありました。

一つは、個人、施設のくくりではなく、同じ住所に何人を診察しているのか、というくくりにしたことです。

上記報道から急遽切り替わったので、個人、施設に分けるには時間がなかったのでしょう。この結果、マンション内に複数人の個人宅の診察にいくとき、なぜか減算されることになりました。

もう一つは、施設に医師が来なくなったことです。

診療報酬が下がりました。下げ幅が大きすぎました。24時間、365日対応です。しかも施設の場合は、非常に対応が難しいです。家族がおらず、認知もひどい人が多い。こんなに安い報酬なら引き受けません。引き受けるなら報酬の高い1人までにします、と医療機関が引き上げました。

施設は大慌てです。認知症の患者さんが入所するグループホームなどは、通院への切り替えを検討したようです。しかし認知症がひどすぎて、医療機関で待っていることができません。結果として、この人はAクリニック、隣のこの人はBクリニック、次の人はCクリニックと、色々なクリニックが一つの医療機関に入ることになり、情報の集約ができなくなりました。医療の質が落ち、施設側はパニック状態になりました。

訪問診療に来てもらえなくなると、施設側が国に直訴した結果、同じ日に複数人見た場合のみ減算する、とルールを変更しました。

結果、1日に1人だけ診察をするという、非常に非効率的な訪問診療に切り替わりました。

車に医師を複数人載せて、1人の医師あたり1名ずつ診察をして、5か所くらい施設を回るという異常な訪問診療になりました。

これを機に施設への訪問診療を専門にするクリニックの勢いは弱まりました。

こんな政策の裏で、国はクリニックにサービス付き専用住宅の開設を勧めてきました。サービス付き専用住宅は、簡単に言えば介護事業所が一階にあるマンションです。老人ホームよりは介護費用が安く、施設の規模が小さいので先行投資が少なく、沢山開設できます。国はこれをたくさん作って高齢者の受け皿にしようと考えていました。クリニックのそばにこれを作り、頻回に訪問診療にいけば、入居費用と訪問診療費用をとれるので、あっというまに先行投資分の回収ができると宣伝しました。これにのせられて開設してしまった医療機関は大変な思いをきたようです。

⑤大きな変化

次の診療報酬改定で、ついに個人宅なのか、施設なのかに大きな区分けができました。

個人宅はしっかりと報酬を得られるようになりました。

一方で施設では、1名なのか、それ以上なのかで区分けができました。

施設で複数人を診察する場合には、非常に安い診療報酬になりました。

やっと正当な診療報酬体制になりました。

しかしその過程で、個人宅なのか、施設なのか、施設では何人を診察しているのか、在宅支援診療所なのか、などなど、細かい仕分けになりました。

訪問診療が開始になってから約10年程度経過し、やっと普通な診療体系になりました。