認知症の不明者について

https://mainichi.jp/articles/20190621/ddm/041/040/066000c

昨日Yahooニュースでも大きく取り上げられていました。

認知症の不明者について、記載します。

なぜ徘徊するの?

認知症の中核症状は記憶障害です。認知症の大多数を占めるアルツハイマー型認知症の場合、新規の記憶形成ができないことが特徴となります。

新規の記憶形成ができない⇒昔の記憶に支配されます。

この”昔”というのが、人それぞれ、また同じ人でもその時によって、みんな違います。

80歳代の認知症の男性を例に出します。例えば、40歳ころの記憶に支配されたとします。40歳のころと言えば、会社員でしたよね。だから”会社に行かなくては!”と動き始めます。

僕の診察した中では、小学生になってしまうグループホームの住民がいました。診察に行くと、「先生(学校の先生です)、お母さんに会いたいから帰りたいです」というのを繰り返し言っていました。

昔の記憶に支配された行動が原因で、どこかに行こうとします。そして歩いている最中に、どこに行こうとしていたのかを忘れてしまいます。また帰り道もわからなくなります。パニックになるため、さらに記憶が混乱して、どこに行けばよいのか分からなくなります。これを徘徊と呼んでいます。

防ぐことはできないのか?

正直、難しいです。昔の記憶に支配された行動を止める必要があります。昔の記憶がよみがえることは抑えることはできません。出かけようとする衝動を抑えるというのは、”動きたい”という思いを抑える訳で、人間としての活動を止める必要があります。向精神薬を使用すれば、その衝動を減らすことはできますが、ゼロにすると廃人になってしまいます。

日常的に徘徊している人なら、 抗認知症薬や少量の向精神薬 を使用して、活動性を少し落とし、頻度を減らすことはできます。 しかし、経験上、非常に安定していると思っていた方が突然徘徊したというのを目にしてきました。認知機能には波があるので、非常にクリアになる瞬間と、通じなくなる瞬間と、その時々で変化をしますので、薬での予防は難しいのが現状です。

どうすれば良いのか?

施錠をするなどの対応は必要だと思います。しかし、その施錠を外して出ていく人もいます。

家族がずっと見ていれば良いと思う人もいると思います。しかし、夜に認知症の家族が「あ~眠った」と思い、家族が眠ったとします。途中で目が覚めます。覚めたときに、認知症の人は「夜だし、また寝よう」とは思いません。「あ、朝になった」と思う人が沢山います。まだ真っ暗ですが、天気が悪いのか、くらいにしか思いません。そして、「朝だ、会社に行こう!」と夜中の3時ころから徘徊をし始める訳です。これを防ぐには、24時間監視をする必要がありますが、家族にも生活がありますので、全ての監視は出来ません。

施設や病院で見ればよいのか。施設は施錠されています。しかし施錠されている施設から徘徊した人を何人も見ました。また病院ではどうでしょうか。認知症専門の精神科病院はあります。認知症患者さんは”取り繕う”のが得意です。病院では取り繕い大人しくしますが、退院したら動き回ります。

つまり、徘徊は防ぎきれません。

徘徊をした時に、行方不明にならないようにすることが大事です。常に持ち歩くであろう鞄、身に着ける靴、下着などに、住所・名前などを書き込むのが良いです。思いもよらない服を引っ張り出してくることや、裸足で外に行くこともあるため、いくつかの服・持ち物にタグをつけることをお勧めします。市販されている徘徊見守りタグを購入して使用するのも良いと思います。

https://www.alsok.co.jp/company/news/news_details.htm?cat=2&id2=857

最後に

認知症の方は今後も急増していきます。それに伴い、徘徊をする人、行方不明者は増え続けています。徘徊をした時に起こしてしまった事故の責任を誰がとるのか、行方不明の人を捜索するネットワークはあるのか、など、社会的な問題と言えます。高齢者が歩いていたら声をかけましょう。徘徊しても帰ってくることができた人、それには必ず声をかけてくれた人、連れてきてくれた人など、その善意の結果として家に戻ることができています。