認知症の経過

認知症の患者さんは、どのような経過をたどるでしょうか。
癌患者さんと比べて、病気の進行が緩やかで、経過を読むことが難しいとされています。
一般には、物忘れが出始めてから死去に至るまで約10年と言われます。

健康寿命と寿命との差、つまり介護を受ける必要がある年数も約10年と言われています。

①認知症の手前(年相応)


物忘れがありますが、生活は問題ありません。抗認知症薬(アリセプトなど)をこの時期に使用すると、認知症の進行が緩やかになるとされています。しかし、実際のところは、薬を投与した方と投与していない方を比較することができるわけではないので、はっきりしません。皆さんに聞くと、少し良くなるような印象のようです。

②認知症(初期) 発症から1~3年程


物忘れをしたことを忘れます。まだ体は元気です。
記憶は乱れますが、体は元気です。徐々に記憶の混乱が強くなり、徘徊、錯乱、幻覚などの症状が徐々に強くなっていきます
例えば会社に行っている時期の記憶に戻ったとします。”会社に行かないといけない”という衝動にかられます。そして、まだ動くことができる体力があります。そのため出歩きますが、歩いている最中で、”何をしに歩き始めたのか?”ということ自体を忘れてしまいます。結果として帰る場所が分からずに徘徊となります。
介護サービスとしてはデイサービスの利用が主になります。

③認知症(中期) 発症から3~6年程


記憶形成に異常をきたします。高齢者としての新規記憶ができず、古い記憶だけはしっかりしているため、精神的に若くなります。その記憶に引っ張られるように動き回るため、体が急速に老化していきます。認知症を有すると、2~3倍体の老化が進行していくといわれます。
その過程で、転倒をしたり、肺炎になったりして、車いすから寝たきりへと、身体活動性が低下をしていきます。
身体活動性が低くなりますが、まだまだ精神的には元気なので、騒ぐことが多いです。”動きたいのに動けない”ことがさらに苛立ちを生み、介護者のことを罵倒します。
そのため、介護が非常に大変な時期です。

④認知症(後期) 発症から7~12年


体の老化に引っ張られるように、精神的に老化していきます。徐々に活動性が低下します。何もしない時期になります。精神的には少し介護が楽になる時期です。
ショートステイなどを利用しながら生活をしていくことになります。
認知症が進み、生きていこうとする意欲も消失し、食事摂取ができなくなります
食事摂取も出来ず、いよいよ死期が近づきます。

まとめ

認知症は約10年間の長期にわたって、ゆっくりと進行していきます。活動性が低下をして訪問診療の依頼を受ける段階で、③認知症中期~④認知症後期に至っており、認知症としての経過を半分程度経過した方が大半です。その後、約5年間ほど訪問診療を実施し、死去に至ることが多いです。訪問診療開始時に元気であっても、元気でなくても、大体5年というのが、訪問診療を継続する年数になることが多いです。

外来診療の場合には、①年相応~②認知症初期の段階で関わりを持つことができるため、介護サービス(主にデイサービス)の助けを借りながら、楽しく長生きできるように調整をしたいと思っています。


認知症後期の食事摂取が困難になったときに、経管栄養を選択するのか迷うと思います。これに関しては次項に記載します。