慢性的な咳について
咳が長引くという方は非常に多く、イギリスの統計では外来患者さんの約3割が長引く咳での受診であると報告されています。当院に来院なさる患者さんでも、一番多い理由は咳です。
鑑別(湿性?乾性?)
咳は、まず痰が絡む(湿性咳嗽)か、乾いた咳(乾性咳嗽)かを分けます。
湿性咳嗽は風邪に伴うものの可能性が高いといわれます。
一方で、乾性咳嗽の際に鑑別が必要になります。
鑑別(急性?慢性?)
鑑別をする際に、発症から2か月以内(急性咳嗽)、2か月以上経過(慢性咳嗽)に分けて考えていきます。
分類
湿性咳嗽
乾性の急性咳嗽
乾性の慢性咳嗽
と、3つに分けていきます。
原因
湿性咳嗽や乾性の急性咳嗽の原因は、ほぼ風邪です。湿性の場合は風邪の最中である可能性が高く、乾性の場合には感冒後咳嗽といって、風邪を引いた後の長引く咳が多いです。特徴は、ベッドに横になると咳が出ることです。長い人は2~3か月咳が続きます。
乾性の慢性咳嗽の原因は多岐にわたるので鑑別が必要です。
慢性咳嗽つまり、2か月以上続いている咳の約1割は感冒後咳嗽とされています。
ほかに、咳喘息(喘息のようなヒューヒューはないが、咳だけが続く)、アレルギー性咳嗽(花粉症などで咳を伴う)、タバコによる咳(肺気腫など)、逆流性食道炎が、約2割ずつを占めていきます。
肺癌や結核に伴う咳の方が稀にいます。そのため、慢性咳嗽の場合には必ずレントゲン検査を実施します。
アレルギー性咳嗽は季節性があります(花粉症の時期に咳をするなど)。
咳喘息は、気圧の変わり目、台風の来る時期などに咳が多くなり、また夜明けに咳が多くなる特徴があります。
逆流性食道炎は、明け方の咳が多いです。
このように咳の出る時間、咳の様子を教えていただき、どれが原因なのかを探っていきます。原因を予想して、それに応じた薬剤投与をする流れとなります。
鑑別の流れ
まずは、乾性、湿性、急性、慢性で分類します。
その後、湿性咳嗽であれば、感冒であることが多いため、治療をします。
また乾性咳嗽の場合には、経過から原因検索をします。
・咳をし始める前に風邪をひきましたか?⇒Yesなら、感冒後咳嗽
・毎年同じ時期に咳をしますか?⇒Yesなら、アレルギー性咳嗽や咳喘息を疑う
・喉がかゆい感じがありますか?、環境変化で咳が出ますか?⇒Yesなら、咳喘息を疑う
肺癌や結核を否定するために、レントゲン撮影をします。
特殊な咳
急性の乾性咳嗽で特殊なものとして、百日咳やマイコプラズマ肺炎があります。
百日咳は幼少期にワクチン接種をするため、大人になるころには抗体価が下がり、移ってしまうことがあります。最近では成人発症が多いです。咳は”ヒューコンコンコン”と言われていますが、成人の場合には胸郭がしっかりしているため、一般的な風邪と症状は同じです。
マイコプラズマ肺炎は、以前は4年に1度流行する病気とされ、オリンピック病といわれましたが、最近では例年のように流行しています。
百日咳、マイコプラズマともに、治療は抗生剤になります。感染しているのか、血液検査でわかるため、咳の様子によっては血液検査をして鑑別を進めていきます。
治療
原因検索をして、それに応じた治療をします。それで改善しなければ、別の理由を考えて処方するのを繰り返していきます。
・感冒後咳嗽⇒去痰薬(ムコダインなど)、鎮咳薬(メジコンなど)。場合により、強めの咳止め(コデイン)を利用します。また、感冒が抜け切れていないと判断した時には、数日間抗生剤を使用することがあります。
・アレルギー性咳嗽⇒アレルギー薬(抗ヒスタミン薬)を使います。どの薬(タリオンやアレグラ、ザイザルなど)を選択しても、比較的直ぐに効くとされています。
・咳喘息⇒吸入薬が基本になります。
・胃酸逆流⇒胃薬を使用します。
病状経過から、百日咳やマイコプラズマ肺炎をうたがい、血液検査をします。採血結果から診断に至った場合には、抗生剤をしっかりと服用いただきます。
このように試行錯誤をしながら治療をしていきます。気が付くと咳が治っているということが多いです。