訪問診療の実際<施設の場合>

施設往診について記載します。

僕が最初に訪問診療をしたクリニックは、施設往診が90%以上を占めていました。その時の経験などを記載します。

施設といっても、色々あります。

グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)、有料老人ホームに大別されます。施設ごとの特徴をまずは記載します。

・グループホーム

認知症を有する元気な方が、ヘルパーの助けを借りて、共同生活をする場になります。

1フロア9名まで、2フロア構成18名を定員としているところが大半です。

各入居者用の部屋がありますが、日中はリビングに集まって、テレビをみたり、カラオケをしたり、料理をしたり、と生活をします。

入居者同士で会話をしますが、かみ合っていないことが多いのですが、認知症ゆえに楽しく話をしていることが多いです。

認知症は、周囲がどう接してあげるのか、非常に重要です。そのため、グループホームのヘルパーや施設長がどのように考えているのか、それによって施設の様子が大きく変わります。騒いだって楽しければよいのよ、と優しく包み込んだり、外出することで息抜きになるからと外に連れ出してくれる施設がある一方で、騒ぐから薬で静かにしてくださいという施設もあります。言葉の暴力を投げかける施設もありました。

グループホームの職員ですが、1名施設長、1名ケアマネージャー、それ以外はパートであることが多いです。そのため、施設長がどう考えているのか、それで施設の色は変わります。

また夜間は1フロア1名でケアをします。1人がトイレに行くと、みんな起きてきてトイレ!と騒ぎます。それが9名。ヘルパーは1名ですので、かなり大変です。

僕が訪問診療に行っていた施設は”(報酬の多い)看取りをやる”という親会社の方針のもと、最終末まで拝見していましたが、これは珍しいと思います。たった1名で夜間を拝見するため、重傷者がいたら回らない、というのが一般的な施設です。

そのため、入院と同時に退去する、特養に移動して最期を迎えるような方が多いです。

入居金不要で、月に15万円くらいのグループホームが多いです。これに介護費用や医療費がかかるので、20万円は掛かると思います。

・サービス付き高齢者向け住宅

建物の中にヘルパー事業所のある高齢者住宅です。グループホームより費用が安く、またグループホームのようなリビング機能がないので、居室でケアを受ける人が多いです。

施設長の方針によって大きく変わりますが、手厚い介護は求めない方が良いと思います。あくまで高齢者が一人暮らしをする場であり、そこにヘルパーなどがサービスに来るので、病状悪化時は診ていくことができません。

訪問診療をするときに、一番大変なのはサ高住です。

・有料老人ホーム

費用が高い施設から安い施設まで、色々あります。高いところでは、入居金5千万くらいです。以前に拝見していた施設では、夫婦で1億用意して入居したが、1年で終わってしまったので転居します、とお話をなさっていた方がいました。高い施設では、元気な老人が多く、施設からの出入りも自由なところが多いです。

一方で安いところは、グループホーム並みです。グループホームでは1フロア9名、2フロアまでという制約を受けるため、それ以上の入居者を受けるために有料老人ホームと名乗っている施設が多いです。

さらに、生活保護者でも入居できるような費用設定にして、病気になって簡易宿泊所にいられなくなった人や、病気を有しているホームレスなどを引き受ける施設もあります。脱走しないように施錠している施設や、廊下を挟んで1畳間が沢山ありそこで居住し、食事の時には廊下に出てきて壁付けの机を倒して食事をする 半ば刑務所のような施設もあります。

お金があり、認知症を有さないなら、高級な有料老人ホームをお勧めします。

一方で、認知症を有しているならグループホームをお勧めします。

費用が厳しければ、サ高住や安い老人ホームかなと思います。

では、このような施設にどうやって往診に行くのか。

まず車に乗って施設に行きます。施設職員1名に立ち会ってもらい、患者さん1名につき3分程度で、施設内を回っていきます。個人宅との違いは、家族が不在であること、です。何かがあったら施設職員にゆだねますが、職員での対応が難しければ家族を呼んで貰い話をします。薬を変えると体調が変わる方が多いので、大きな変わりがなければ何も変えない、というスタンスで僕は診察をしていました。その中で、徘徊をして困っているとか、血圧が高いとか、食欲がないとか、訴えがある人を重点的に拝見していました。18名のグループホームなら、1時間はかからないと思います。こうして半日に1施設を回っていきます。