認知症の診断と治療

診断について

認知症かどうかの検査には複数の方法がありますが、最も簡便で、結果もハッキリしている長谷川式簡易スケールが一般的には用いられます。満点は30点で、20点以下を認知症としています。


認知症を疑った際に、頭部の画像検査が推奨されています。頭部検査をする理由は、治りうる認知症を鑑別することです。治りうる認知症の代表的なものは、慢性硬膜下血腫で、”数か月前に転倒した。最近突然性格が変わってしまった”というものです。転んで硬膜下にある細い血管が切れ、ジワリジワリと出血し、徐々に頭を圧迫して認知症状を引き起こすものです。これは手術をすれば治ります。
このことから、急に変になった、突然性格が変わったような場合にはCT検査を勧めます

以前から少しずつ物忘れが酷くなったという場合には、無理に画像検査をする必要はないです。

治療について


①治療の基本は、周囲の環境調整です。
認知症を進めないようにするには、刺激を入れていく必要があります。
認知症になると、色々な欲求が低下します。そのため、”動いてください”と伝えても、本人自ら動こうとする活動性はありませんデイサービスなどの介護調整をして、半ば強制的にやってもらうことが重要です。
またテレビやラジオをつけておく、カレンダーを置く、鏡を置く(年齢の認識が整う)、毎日今日は何日?といった質問をする、なども必要です。

また、接する人が怒ってしまうと、”私は40歳だ!会社に行かないといけないのに誰も理解してくれない”といった感じで、より発狂します。
接するときの基本は”聞き流す”ことです。”そうなの、会社にいくのね。けど待ってね、会社の前に食事をしないとね”と話します。
食事が終わるころには会社に行こうとしていたことを忘れています。

②内服薬
上記をサポートするような目的で内服薬を使用します。

・アリセプト(ドネペジル)
一番有名な認知症薬です。数年前まで、薬の売り上げで、日本で1番でした。
最近は後発薬がでた影響もあり、売り上げは落ちていますが、今でも第1選択で服用することが多いです。
アリセプトが効く方は”活動性の低下した認知症初期患者さん”という印象です。
認知症の進行を遅くする効果があるとされていますが、実感できるものではありません。
副作用で気持ち悪くなる方がいるので、まずは3㎎で慣らし、5㎎、10㎎と増量します。

・レミニール(ガランタミン)
”暴れてしまう認知症患者さん”に使用します。暴れてしまうのは、進んだ認知機能低下と現実のギャップに苦しんでいる結果ですが、このギャップを小さくするイメージです。
服用を始めると、怒らなくなった、徘徊が落ち着いたということがあります。
ただ直ぐには効かないので、ほかの薬剤と併用していきます。

・リバスタッチ(リバスチグミン)
”食欲が低下した認知症患者さん”に使用します。
薬を使用することで食欲が回復する可能性のある認知症薬です。
認知症が進行して、食べることへの欲求や食べ方を忘れてしまった場合に、使うことが多いです。

・メマリー(メマンチン)
レミニール同様、”暴れてしまう認知症患者さん”に使用します。
アリセプト、レミニール、リバスタッチは同じような作用機序なので併用することはありませんが、メマリーは全く作用機序が違うので、併用することができます。
暴れてしまう方の場合には、レミニールで開始し、まだ落ち着かないならメマリーを追加する(メマリーから開始しても良いです)流れが多いです。

・抑肝散
子供の夜泣きに使用していた薬剤になります。
2歳前後のお子さんは、夕方になると、なぜか泣いたり騒ぐことがあります。
オオカミが月をみると吠えるのと機序は同じだろうと思います。
夕方になると哺乳類はざわつきますが、徐々に理性が働き、それをざわつきを抑えていきます。
認知症が進行して理性がなくなり、ざわつきが強くなり、夕方になると暴れてしまう方がいます。このような方で抑肝散が効きます。
もともと子供が飲んでいた薬なので、比較的安全に服用できますが、足が浮腫むことがあるのが最大の副作用です。

・向精神薬
統合失調症の患者さんに使う薬です。統合失調症とは、AとBとのつながりが壊れた状態。例えば”リンゴ”といえば”赤い”と答えるのを”電車”と答えるようになります。
(わかりやすく極端に書いていますので、実際の病態とは異なります)
認知症の方も、その方の記憶と現実とが繋がらなくなり、結果として幻覚、妄想になっています。
この幻覚や妄想を抑えるのが向精神薬です。
代表的なものはセロクエル(クエチアピン)リスパダール(リスペリドン)です。
これらの薬剤を使用することで、誤嚥や転倒が増え、寿命が短くなるという報告が海外であります。そのため使用は必要最低限にするべきです。
抗認知症薬(レミニールやメマリーなど)は即効性がないため、即効性のある向精神薬と併用し、徐々に安定したら抗認知症薬をメインにして向精神薬を減量するのが、一番良い使い方だと思います。

夜間不穏で眠らない方に睡眠薬を内服するのは辞めた方が良いです。
頭が覚醒している状態で、体を眠らせようとすると、より不穏になったり、転倒したり、非常に危険です。睡眠薬より少量の向精神薬の方が安全です。

③介護調整
介護は、介護者の器の中でしか対応できません。介護者の器で支えきれないほどの状態になると、介護者・要介護者ともに生活が破綻します。
そのため、介護者の負担を減らして、長く介護できる状態にする必要があります。
ショートステイやヘルパーの導入など、ケアマネージャーとしっかり相談しましょう。