糖尿病について ②

糖尿病の治療について記載します。

①治療目標

 治療については幾つか論文があります。その中で、

・初期治療をしっかりすると合併症は少なくなる

・初期治療後は、治療を強化しても、強化しなくても、寿命は変わりない。

・治療をしすぎると、寿命が短くなったり、うつ病になったりする。

このことから、合併症にならない、症状が出ない程度の治療を目標にすることが一般的です。また最近では、年齢に応じて治療目標を緩めても良いとされています。

日本糖尿病学会と老年医学会が共同で作った、ご高齢者の自立度と治療目標になります。

患者さんの背景に応じても、どこまで治療をするのかを決めていく必要があります。

※HbA1cは?

治療の指標に使います。血中にヘモグロビン(いわゆる赤い血の元)に糖分がどのくらいの割合で付着しているのかをみる指標です。

正常値は6.2まで。5.2くらいまでの方は糖尿病になる可能性が非常に少ないといわれています。糖尿病は自覚症状を伴わない病気とされます。そこで、HbA1cに30を足して、体温と考える、というやり方が前から行われています。

つまり、

~36.5度(HbA1c 6.5):平熱

36.5~37.5(HbA1c 6.5~7.5):微熱

37.5~(HbA1c 7.5~):高熱

というイメージです。HbA1c 9以上の方、非常に状態が悪いというのを感じて頂けると思います。

僕がお会いした一番高い方は、HbA1c 20くらいでした。即入院にしました。目が見えず、歩くことも出来ず。

治療をしたら、非常に元気になりましたよ。

②治療

基本は運動と食事です。

総カロリーを抑えて、バランスよい食事をする必要があります。

糖質をカットする食事指導が一時期流行りましたが、生命を危険にする可能性が高く、今はやってはいけないとされています。

甘いジュースから糖尿病になる方もいます。ペットボトル症候群とか清涼飲料水症候群と言われていました。ポカリスエット500ccで砂糖30g、コーラやジュースで60gくらい含まれているといわれます。世界保健機関(WHO)は砂糖摂取量を1日の総カロリーの10%未満に抑えるべきで、できれば5%に抑えるようにとしています。これは砂糖25~40gに相当します。つまりジュース500cc1本で、1日の至適摂取量を超えてしまうことを意味しています。

※カロリーオフとは100cc当たり5kcal未満とされます。カロリーオフでも500ccで25kcalくらい。砂糖換算で6g程度になりますので、カロリーオフ飲料を1日2L飲めば24gに相当します。

薬についてです。沢山薬はあります。そのうちのいくつかを記載します。

・ボグリボース(ベイスンなど)

以前の第1選択薬です。食事の小腸での吸収を遅らせ、血糖値の上昇を防ぎます。

しかし、消化が遅れる⇒食事が停滞する⇒発酵してガスが産生される⇒おなかが張る、という副作用があります。また食前に内服するため、最近では主流ではなくなりました。

・ピオグリタゾン(アクトスなど)

ボグリボースの次の時代の第1選択でした。1日1回で良く、また血糖降下効果も強いので処方しやすかったです。しかし、下肢浮腫や心不全の副作用があること、欧米で膀胱癌の発症との関係があると報告をされたことから、処方されることが減りました。ヨーロッパでは糖尿病専門医しか処方できないなどの制約があります。

・メトホルミン(メトグルコなど)

世界的には今も昔も第1選択薬です。理由は安いから。大量に使用しても危険性が少なく、また安いことから、医療保険の無いアメリカではよく使います。

・DDP-4阻害薬(ジャヌビア、トラゼンタなど)

食事をすると消化管ホルモンが分泌されます。消化管ホルモンの総称をインクレチンといいます。このホルモンが出ると、食欲を抑え、インスリン分泌が増えます。インクレチンは分泌された後で速やかに分解されていきます。その分解される酵素DDP-4を阻害する薬になります。(理論上は)血糖値が上昇したときのみに作用するので安全であること、1日1回で効くこと、血糖値を下げる効果が強いことから、主に使用されます。10年前に処方開始になり、日本では第1選択薬になりました。

・GLP-1受容体作動薬(ビクトーザ、トルリシティなど)

上記のインクレチンそのものを投与すればもっと効果が出るということで開発されたのがGLP-1です。注射剤しかないのがネックです。 毎日投与するビクトーザか、週1のトルリシティが良く使用されます。ビクトーザは高用量で使用した際に体重減少があったと報告されており、アメリカでは肥満の薬として使用されています。インクレチンの効果で食欲が低下するため、体重が減るといわれています。欧米の使用量は日本の使用量の数倍です。一方で、オゼンピックは海外と同量で認可を受けており、体重は5~7㎏減少したとされています。これらを使用してGLP-1メディカルダイエットが自費診療で実施されています。体重の多い2型糖尿病の方で、注射を打つことへの抵抗がなければ、オゼンピックを使用して体重を減らしつつ、糖尿病を改善することができる可能性があります。

※オゼンピックは薬価で折り合いがつかず、まだ販売開始時期は決まっていません。なお、他のGLP-1受容体作動薬は体重を3㎏程度低下させます。オゼンピックが販売開始になるまでは、体重を減らす目的での保険適応内でのGLP-1は難しい(自費では認可を受けている量より多くのGLP-1を投与できるので体重減少に至る可能性があります)。

※内服薬も治験段階に入りましたが、おそらく使用開始は数年後になると思います。

・SGLT2阻害薬(デベルザ、スーグラ、フォーシーガなど)

腎臓で尿中の糖分は再吸収されます。それをブロックして、尿中に排泄される糖分を増やし、血糖値を下げる薬です。糖分に引っ張られるように水分も多く排泄されることから、体重が減り、血圧が低下するとされています。そのため、血圧高めの糖尿病の方には良い適応とされます。体重は2㎏程度減少します。

まとめ

1剤で落ち着く患者さんは少ないため、これらの薬の合剤も処方されています。

膵臓に鞭を打ち、インスリン量を増加させるSU剤(アマリールなど)も良く使用していましたが、いずれ膵臓は疲れ果ててしまうことから、使用を控えるようになりました。

インスリンに関係なく効くSGLT2や、消化管ホルモンの調整をするDDP-4・GLP-1といった薬が主流になりました。これらでも改善しない場合にはインスリンの注射を選択することもあります。

なお、安全性が一番確立しているのはインスリンであるとされており、そのため妊娠中の血糖管理の基本はインスリンになります。インスリンを最初に使い始めた日本人が80歳代になっています。戦後に米軍から使用期限切れのインスリンをかき集めて投与をしたという話が残っています。安全性の高い(処方経験年数が最も長い)インスリンでも、まだ歴史は70年程度なんですね。そのくらい糖尿病は現代の病気といえます。

※糖尿病の治療を内服で実施する場合に年間数十万の医療費が、インスリン投与を開始した場合には100万円以上の医療費がかかるといわれています。病気になる前の対応が重要です。

※ダイエット目的でオゼンピックを処方する際には自費診療になります。日本では肥満治療への保険適応はないためです。ご了承ください。当院では実施していません。オゼンピックを個人輸入しているクリニックでの加療になります。月に10万円程度の費用が掛かります。

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