訪問診療① 序-1
僕の医師人生の半分を過ごした訪問診療について記載します。
まずは歴史から。
①訪問診療黎明期
訪問診療というシステムは以前はありませんでした。
外来の延長として、何かがあったら往診にいく、というスタイルでした。
昔勤務をした、川崎幸クリニックの杉山院長は、制度ができる前から訪問診療をしていました。必要なことをする、そうすれば、あとからシステムが追い付いてくるという信念のもと、働いている偉大な先生です。収入関係なく、外来と同じ単価で診療に行っていました。
②普及にむけて
その後、国が訪問診療の普及に動きました。
理由は、家で看取ってほしいから、です。
家での看取りを増やすために訪問診療を推進していると、国の書類にしっかり明記されています。
段階の世代が看取りに向かう際に病室が足りない、そして医療費がかかりすぎるとの判断です。そこで、在宅看取りを拡大することで病室も足りる、医療費も下がるという安易な考えです。
ちなみに、以前は在宅看取りは当たり前に行われていました。病院をどんどん作れという国の方針のもと、たくさん病院ができました。その中で、急性期病院、療養型、看取りをする病院など、別れていきました。そうして病院で死ぬことが普通になったわけです。今度は医療費がかかりすぎるから、家で看取れ、と言い始めたわけです。勝手ですよね。
在宅看取りをする上での一番の障害は何だと思いますか?”家で人が死ぬのを見たことがないから怖い”というものです。どんどん病院で看取るようになり、それが当たり前になった時代を過ごしてきて、いよいよ自分の家族を看取る、けど家でどうしてよいのか分からない。正直な思いです。
厚生労働省の書類より
上の図をみてもわかるように、戦後は在宅看取りの方が普通でした。病院が増え、病院で看取るのが普通になりました。家で看取ることができている人は全体の2割(入所している施設での死去も含めて)くらい。しかし、在宅で死にたいと思っている人は5割を超えており、この差を埋めるためには訪問診療をするクリニックを増やす必要があります。
そこで、国としては、
24時間、365日対応をする医療機関を在宅支援診療所と定義し、
その医療機関による訪問診療の単価を引き上げました。
高血圧で通院なさる方は、1割負担で400円くらい。一方で訪問診療では4000~5000円くらい。外来の約10倍の単価に設定されました。
③普及へ
診療報酬が高めに設定されていたこともあり、徐々に訪問診療をする医療機関が増えていきます。
個人の家を回る場合、1件30分~50分くらいかかります。現在僕も昼休みに訪問診療をしていますが、家に行くまでの時間、診察する時間、帰ってくる時間を合わせれば約1時間かかります。1時間で1人の診察です。
外来では5分で1人の診察になりますので、10倍時間がかかる訪問診療に10倍の診療報酬を頂くこと、しかも24時間対応(当院では院長個人携帯電話番号を通知しています)までします。妥当な診療報酬です。
これを施設でやるとどうでしょう。例えば20人入居している施設に訪問診療に行き、3分に1人計算で20名診察をします。約1時間の診察で、20名×10、つまり外来患者さん200名を診察したのと同じ診療報酬を得ることができます。
これを1日に2~4施設、月に40施設くらい(月に2回訪問に行くため40施設くらいが限度です)の診察に行けば、1日2~3時間の診察+行き来の交通で、外来患者さんを8000名診察したのと同じ診療報酬を貰えます。
8000名×4000円=3200万円/月になります。
これだけ稼げました。この結果、施設へいく訪問診療のクリニックが沢山できました。
どう思いますか?
クリニックが個人の人を丁寧に診察に行くために設定された診療報酬で、1人2~3分程度の診察を大量に施設内で実施して、多額の診療報酬を得ることができました。
僕も、こういうクリニックで勤務をしていたことがあります。医師複数名で約40施設を担当しており、上記くらいの診療報酬がありました。午前1件、午後1件と施設訪問に行っていましたが、午前0件、つまり仕事がないコマが週に数コマありました。
それでも1500万円以上の給料を頂いていました。
クリニックの理事長は高級車を数台、大きな家、別荘、マンションなどを複数持っていました。変ですよね。
朝日新聞が、施設が医療機関へ患者さんを紹介し、その見返りに医療機関から施設側にキックバックが行われていると新聞で報じました。それを機に国は診療報酬改正に動きます。