訪問診療のルール
訪問診療をする上でのルールについて記載します。以下の内容を明文化しているクリニックはないと思います。内容を知っておいたうえで、訪問診療を検討していただきたく、記載します。
・月2回の訪問診療が原則であること。
数年前の診療報酬改定までは月2回以上訪問診療に行くようにと明記され、月1回の場合は外来での算定になってしまう状態でした。その後、月1回の訪問診療が認められましたが、その代わり大幅に診療報酬が減ることになりました。診療報酬としては、月1回になると約1万円の減算になります。このように診療報酬が減少するため、クリニックによっては月1の訪問診療を認めてくれません。特に在宅のみをやっている医療機関の場合、意地でも月に2回診察に来ます。ショートステイで月の大半を施設で過ごすような患者さんにも、月に2回家に診察に来ます。変ですよね。
・医療機関ごとに診療報酬が異なります。
24時対応をしないクリニック、24時間診療をする在宅支援診療所、複数名の医師で対応する機能強化型在宅支援診療所と別れており、機能強化型が一番患者さん負担が大きいです。さらに看取り件数などで実績の加算が付いているため、機能強化型ではかなり診療報酬が高い(患者さんの費用負担が大きい)です。
機能強化型の方が複数名医師で対応するので、夜間などは安心です。しかし、実際には、そこまで機能の差は無いというのが実感です。複数の医師で対応することよりも、どういう医師に診察をして貰うかの方が絶対大きいと思っています。特に、複数の診療所で連携をし、複数人の医師がいることで機能強化型になっている医療機関があります。診療所にとっては良いルールですが、患者さんにとっては高い費用負担になるだけで、得るものは殆どありません。
・在宅診療所の中には看取りをしないところの方が多い。
看取りまでしっかりやっている医療機関は、在宅の中で1割ほどといわれます。9割がたの医療機関では、看取りが近くなると入院の案内をされます。川崎幸区には、川崎幸クリニックとあいホームケアクリニックという大きな訪問診療の医療機関があり、各々150人程度を自宅で看取っています。つまり、幸区で自宅で最期を迎えることができる人は約300人になります(実際にはもっと少ないです)。
川崎市幸区には訪問診療のクリニックが複数あるので良いですが、隣の高津区、多摩区などは大きな訪問診療のクリニックが余りありません。在宅看取りを頑張っているクリニックが御自身の居住エリアにいくつ存在しているのか、家で最期を迎えることができるかはそれに依存しています。
なぜ葛飾区が「在宅死率・全国1位」になったのか自宅で亡くなる「在宅死」の比率が最も高い都市は東京都葛飾区である。厚労省が10月20日に公表した2016年の「在宅死」調査で、人口20万人以上の都市を比較した中で判明した。前年の第1位は神奈川県横須賀市だったが、葛飾区が抜いてトップに立った。
葛飾区にわたクリニックという頑張っている医療機関があるから、在宅死亡率が全国1位になったとの記事です。逆を言うなら、頑張っている医療機関がお住まいの区に存在しているのかどうか、これが自宅で最期を迎えることができるのかを決めている現状があります。
・訪問診療専門の医療機関があります。
今まで訪問診療専門の医療機関は制度上は認めていませんでした。そのため、開院するときには受付を作り、ベッドを置くスペースを作り、普通のクリニックとして開院し、開院後に撤去していました。無駄なお金がかかりますよね。そこで訪問診療専門の医療機関を認めることになりました。その代わりに、いくつかの条件を課しました。そのルールに縛られます。
まずは良いところから。昼夜を問わずに訪問診療のみをやっている医師が対応するので、緊急でコールした際の対応が良いと思います。訪問診療専門診療所の、機能強化型在宅支援診療所が、訪問診療での取り決め上では一番上に立っているのかなと思います。
次に欠点です。外来をやっていないことです。患者さんの家族に薬を出してほしい、ということがあると思います。在宅専門の診療所は「患者数の95%以上が在宅患者であること」というルールがあります。そのため、家族の診療も一緒にしてほしいと頼むと断られます。家族の診察をした分は外来としてカウントされるからです。診療所で勤務している職員家族などの診察をするため、5%というのはあっという間に終わってしまいます。訪問診療をしている患者さんの家族を診察する枠はありません。自分自身の体調管理は二の次にして介護をしているという方が沢山います。こういう方々の診療をすることができません。制度として異常であると思っています。
・癌患者さんを対象にした特殊な算定があります。
在宅がん医療総合診療料といいます。ガン末期患者さんに対し、訪問診療・訪問看護で週に4回以上訪問をした場合に、7日間診察したという算定をしても良いというものです。週に4回以上訪問が必要な患者さんの場合、毎日のように点滴をしていたり、酸素を吸っていたり、医療行為が多いです。そのため、色々なことを包括して週単位で医療費を支給します、という制度です。
ガン末期の患者さんに対し、しっかりと治療をしていると、普通に算定した費用=在宅がん医療総合診療料での算定、になります。
これを悪用する医療機関があります。毎日診察に来る必要がないのに、連日のように医師や看護師が来ます。それも僅か5分程度。診察の内容は特に問われておらず、”家に数日間診察に行ったか”だけが算定条件です。
この算定をした場合、月に約40万円の診療報酬になります。その算定ではない場合には、月に6万円くらいの診療報酬です。医療機関としては、毎日のように診察に行きたいと思いますよね。家で穏やかに生活をしたいと思って家に帰ってきたのに、用もなく毎日医師か看護師が来る。僕は害にしかならないと思っています。もちろん、医療処置が多くなった場合には、この算定は非常に有用です。もしも「毎日訪問診療に行って良いか」と言われたら、「まずは週1くらいから開始して必要になったら回数を増やしてください」、と伝えてください。
・居宅以外への訪問診療は原則認められていません。
ショートステイ先やデイサービス先への訪問診療は基本的には実施できません。ショートステイの場合には、家に最後に居た日から30日以内は診察に行って良いことになっていますが、ショートステイ先に嫌がられることが多く、現実的には訪問診療は難しいです。なお、入所している施設の場合は”入所先=居宅”という扱いなので、施設に訪問診療ができますが、一時利用している施設(デイやショート)の場合は”居宅=自宅”であり施設は一時利用場所なので、訪問診療に行くことができません。
・交通費は別途請求しても良いと診療報酬ではなっていますが、請求している医療機関はほぼありません。
・定期的な訪問診療以外に、調子が悪い時に追加で診察に行くのを”往診”と言いますが、追加で費用が掛かります。
通常の往診では、1割負担で720円ほど。これに夜間や休日の場合には、追加で費用負担があります。
さらに、緊急往診というものがあります。生命にかかわる往診のことを緊急往診と呼び、加算を頂きます。1割負担の方で650円かかります。緊急往診とは、心筋梗塞、脳梗塞という緊急疾患と、癌末期状態の方への往診とされています。緊急往診の適応の方はあまりいないはずですが、実際にはかなりの件数がこれで算定されています。前に勤務していた職場は、薬が足りないというコールでも緊急往診にしていました。
加えて、夜間・休日加算1300円、深夜加算2300円などがあります。
つまり、往診を呼ぶと、1割負担の方で1400円から2700円くらい費用がかかります。
※実際に訪問診療を頼むなら、どこにすればよいのか?
多くはネットやケアマネの意見を聞き、どこの訪問診療の医療機関に任せるかを決めていきます。
経験上一番良いと思われるところは、近隣の外来も訪問診療もやっているクリニックに切り替えることです。最期をどう迎えるのか、それは医師と患者、家族でしっかり話し合って決めるべきですが、そういう話し合いができる信頼関係を作る必要があります。外来通院をしていた医療機関の医師とは長い間の関係性が出来上がっているので、非常に良いと思います。ただ、”看取りまでやっていますか?”というのは聞いてください。これがNoの場合、いよいよというときに病院に行くか、看取りをする医療機関へ切り替える必要があります。”Yes”と言ってくれる、地域のクリニックがベストですね。
外来患者さんが多く来院なさる医療機関の場合、訪問診療に行く余裕がないところが多いです。そのため、看取りまでやる、外来をやっているクリニックは実際には少ないです。
地域のクリニックがない場合には、ケアマネージャーに相談するのが一番です。この先生は対応が良いといった意見を聞き、選択なさるのが良いと思います。
次に、人工呼吸器などの高度な医療を装着している患者さんの場合です。この場合には、機能強化型在宅支援診療所、そして在宅専門診療所をお勧めします。装着している医療器具の不具合などで頻回に診てもらう必要があるからです。”機能強化型、~区(お住まいの区)”で検索すれば出てきます。例えば幸区の場合は、川崎幸クリニック地域医療部(僕が以前在籍していました)、あいホームケアクリニックの2か所が大きいです。
しかし、呼吸器なら いきいきクリニック、何か異変があったときに病院に行きたいと思うなら川崎幸クリニック、在宅看取り含めて対応してほしいなら あいホームと、各クリニックの特徴があります。そのため、地域のケアマネージャーに相談するのが良いですね。
在宅ケアを受ける場合には、訪問診療以外にも訪問看護やヘルパーなどの助けも必要です。特に訪問診療と訪問看護の連携は重要です。訪問看護師さんに一緒に働きやすい訪問診療医を紹介してもらい、その医療機関に頼むのも、良い選択肢だと思います。
幸区内の患者様で、どこの医療機関にすれば良いのか悩んでいる方は、当院にご相談ください。最適な医療機関をご案内します。
主治医になった先生が合わない、いやだという場合、我慢しないで切り替えることをお勧めします。家に診察に医師が来る、つまり、いやだと思っている人が家の中に入ってくるわけで、ストレスになり、病状は悪化します。以前に記載しましたが、医師は変人だらけですが、中には良い人がいます。合わなければ変えることができるので、耐えないでくださいね。