患者さんとの接し方

僕は患者さんとの目線を大事にしてきました。

そのことを記載します。

<研修医時代の出会い>

研修医として最初に回ったのが、横浜市大附属病院の第1内科でした。

第1内科は、呼吸器内科、血液内科、膠原病内科をまとめた内科でした。

この中で、呼吸器内科と血液内科を回りましたが、すごく勉強になりました。

最初に回った呼吸器内科での出来事。

医師の資格を取り、まだ間もない(1か月経たない)時です。どう接してよいのか分からず、また採血でも点滴でも全てが初めてでドキドキしていました。

患者さんに話しかけに行こうと思い、1日2~3回は回診をしていました。

週末に髪を切りに行きました。国家試験が終わり、卒業式、研修医の研修などが始まり、やっと落ち着いたし髪を切ろう、と思ったわけです。やや短めのさっぱりした感じで、変な髪型ではないですよ。

さっぱりして翌日出勤した時、患者さんに注意を受けました。

「若いからそういう髪にしたいのはわかるよ。けどね、あなたも私にとっては先生の1人なのよ。だから、先生ぽく容姿から気を付けないとダメよ」と言われました。

その方は肺癌で抗がん剤治療中。副作用に苦しみながらも、毎日楽しくお話をしていた方です。ハッとしました。あ~僕は医師になっているのか、そうか、ベテランの医師に見えるように、容姿・ふるまいを気を付けようと思いました。

それからは、「お前は老けているな」という先輩医師の言葉を無視して、ドシッと構え、何があっても動じません!と見えるように(心の中ではドキドキが止まりませんが)、振舞ってきました。

医師からの患者さんへ伝わるものは、言葉よりも話し方や容姿・雰囲気であると、教科書では読んでいましたが、この時に実際に学びました。

その後、安心感を与えることができるような姿と同時に、患者さんとの距離感を縮めることにも努力をしました。患者さんは、研修医や看護師には困っていること・つらいことを言ってくれますが、医師相手には言ってくれません。言いにくいのでしょうね。研修医の時は、患者さんの本音を聞くチャンスなんです。患者さんのところに行って話をして、不安な感情、病気を否定したい感情など、色々教えてもらいました。そして、患者さんがベッドに居るなら、その目線と高さを同じにするように屈むようにしました。患者さんと同じ目線になることの重要性も教わりました。

また第1内科は、夜8時過ぎには仕事が終わります。仕事が終わった後で、患者さんたちの部屋をめぐり、「お休み」と言いながら各部屋の電気を消していくことをやっていました。非常に良い経験でしたね。

次に回った血液内科でのこと。

20歳くらいの再生不良性貧血の末期状態の人がいました。何度も感染症に陥り、そのたびにICU加療が必要で、最後の手段として骨髄移植をしようと長期入院をしていました。血液内科を回り始めたとき、上司からはこの患者さんを幸せにしてほしい、なぜなら死んでしまう可能性が極めて高いから、という話を聞きました。他の患者さんは担当しなくても良いから、どうか、この人を大事にしてほしいと言われました。

まだ経験の浅い僕は、いよいよどう接してよいのか分かりません。

朝30分、夜1時間くらい、通うことにしました。そして病気以外の話を沢山しました。死が近い可能性は本人が一番わかっています。そこで、病気以外の会話をして、少しでも病気から心を逸らしてあげたかったです。

無菌室に入ると、面会者が本当に減ります。無菌室の看護師さんと医師のみ。家族はあまり面会に来ませんでした。閉鎖空間に入り、本当に不安だったと思います。上記のように、病室の電気を消しながら他の担当患者さんへ挨拶をして回り、その後無菌室に移動して、毎日1時間話をしました。

その人が移植をした直後に、僕は次の科に移動しました。移動するときに、つらい時が多くて、僕に当たってしまった時があったこと、これからは僕に頼らなくても生きていくことができるように頑張るという手紙をくれました。何度も何度も書き直して綺麗に書いてくれた手紙だったと看護師から聞きました。

その後、先輩医師から、移植がダメだったこと。死を自覚して鬱状態になり、自暴自棄になっていると聞かされました。違う病院での研修だったので、すぐには行けず、電話をしました。その時は笑って話をしました。週末に会いに行こうと思っていましたが、その前日に亡くなりました。その人が笑っていたのは、僕と電話をした時が最期で、みんながビックリするくらい一時的にも元気になっていたと、泣きながら看護師が教えてくれました。

医師と患者の関係、立場を考えて行動をするようにしていました。しかし、時には恋人のような、友人のような距離感で接すること、それも重要であると教えてもらいました。今こうしてブログを書いていても泣きそうになりますね。

僕の患者さんとの付き合い方は、この時に学んだのかなと思います。

なるべく同じ目線に立つこと。病気応じて、患者さんが何を求めているのかに応じて、患者さんと良い距離感を保ちながら、信用してもらえるような医師として振舞うこと。そして、時には友人のような距離感も大事であると。

なお、僕は患者さんにプライベートな連絡先を伝えたことはありません。友人のような心の距離感はあっても、実際に友人になってしまうことで、病気の治療をする際に支障になると思っているからです。