下痢がつらいです
風邪をひいているわけではないけど、下痢を繰り返しているという方の受診が増えています。最近は特に来院なさる方が多いので、以前に記載した文面を少し加筆します。下痢を繰り返す方は、過敏性腸症候群という病気である可能性が高いです。
過敏性腸症候群とは?
消化器病学会によると、「お腹の痛みや調子がわるく、それと関連して便秘や下痢などのお通じの異常(排便回数や便の形の異常)が数ヵ月以上続く状態のときに最も考えられる病気」とされ、大腸に異常がない(癌や腸炎など)にも関わらず、機能的な問題で下痢や腹痛を起こす病態です。病気の英語名の頭文字を取り、IBSと表記することもあります。
発症頻度は約10%とされています。つまり、10人に1人は下痢や便秘で苦しんでいると言われます。
消化器病学会が、患者さん、ご家族様向けのガイドラインを記載しています。非常によくまとまっているので、ご参考になさってください。
https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/ibs.html
診断基準
- 最近3ヵ月の間に、月3日以上にわたってお腹の痛みや不快感が繰り返し起こっている。
- その腹痛などの症状が、1)排便によって症状がやわらぐ 2)症状とともに排便の回数が変わる(増えたり減ったりする) 3)症状とともに便の形状(外観)が変わる(柔らかくなったり硬くなったりする)。
原因
原因・機序ははっきりしていません。ストレスが原因ともいわれています。
感染性腸炎(おなかの風邪)のあとで発症頻度が増えると言われています。IBSのうち4~6分の1程度は感染性腸炎後の発症とされます。
ストレス、おなかの炎症や腸内細菌の乱れなどが複合的に原因になるであろうと考えられています。
IBSの発症に脳内物質のセロトニンが関与していると言われています。セロトニンは不安、鬱とも関係性の強いホルモンであることから、IBSと鬱・不安とは強い関係性があると言われています。
診断
体重減少がある、血便があるなどの症状を有している場合には、大腸内視鏡検査が推奨されます。それ以外の場合には、血液検査や便検査、問診などで、器質的疾患(大腸炎、大腸癌)を否定して診断をしていきます。これがあれば診断になる、といったマーカーはありませんので、総合的に判断していきます。
治療
①生活環境の調整
炭水化物や脂質、コーヒー、アルコール、香辛料などにより、症状が増悪することがあるため、摂取を控えましょう。また低FODMAP食が良いと注目を浴びています。
ただし、食事内容に気をつけようと思うほどに、お腹を意識してしまうことに繋がり、むしろ悪化することもあります。参考程度になさるのが良いと思います。
F:発酵性
O:オリゴ糖⇒ひよこ豆、レンズ豆、小麦、玉ねぎなど
D:二糖類⇒牛乳、ヨーグルトなど
M:単糖類⇒果物、はちみつなど
And P:ポリオール⇒人工甘味料、マッシュルームなど
消化されにくい糖類が大腸内で発酵してガスになり、腸管運動も異常をきたす(腸管内の水分が増し、下痢したりゴロゴロしたり)と言われます。
②薬物
過敏性腸症候群には、便秘型、下痢型、腹痛型があり、タイプに応じて治療方法が異なります。共通するのは整腸剤が良いこと。ビオフェルミンやミヤBMといった整腸剤を使用します。
今回は下痢型過敏性腸症候群について記載します。
・イリボー: 消化管運動亢進を助長するセロトニンの伝達経路を遮断することで、排便亢進や下痢症状を改善します 。副作用は便秘です。非常に有効な薬ですが、便秘になる可能性があるので、少量から使用します。女性の場合には特に便秘になりやすいので少量から開始します。女性では2.5㎍から5 ㎍ で、男性では5 ㎍ から10 ㎍ で使用します。
・コロネル、ポリフル:おむつなどの含まれる高分子化合物です。便中の水分を吸収し、良好な形状の便にします。
・SSRI(抗うつ薬):過敏性腸症候群の原因として精神的なストレスが言われており、それを軽減して下痢を抑えるのに使います。
下痢がメインの方は、イリボーという薬を使用すると、非常に効果があります。これを服用するだけでも、症状が軽くなります。苦しんでいる方は、まずはイリボーを服用してください。
最後に
この病気は非常にありふれた病気です。原因などはわかっていません。突然発症してしまうことが多いですが、気付くと治っていたという方も多いです。下痢が非常に多いことは精神的にも身体的にも大きなストレスになります。そのため、薬剤を使用して少しでも軽減することをお勧めします。悩んでいる方はご相談下さい。