心療内科

<現在当院では、不安、不眠の新規の患者様の診療を中止しています。>

当院には、精神的につらいという方が多く受診なさいます。色々な病気を総合的に診ていきたいという思いですので、身体的(内科)も精神的(心療内科)も拝見できることに喜びを感じています。今回は心療内科について少し記載します。

お勧めの本から

https://books.rakuten.co.jp/rb/13502216/

「働く人の心療内科」という本で聖路加国際病院の医師が記載した本で双葉社という会社より出版されています。心療内科は、聖路加国際病院で院長先生などを歴任した日野原重明先生により、日本に広がった分野です。参考になるところが多いので、興味のある方は是非。この本より要点の一部を抜粋します。

心療内科とは

心療内科は、主に身体症状を訴える心身症を扱う内科と定義され、からだの面以外にも心理的な面や社会的な面からもアプローチする、全人的に診る診療科として掲げられました。

扱う病気としては以下のような疾患です。

不安障害:パニック障害など。不安に襲われて動悸がする、汗が流れる、嘔吐するなど

気分障害:うつ病など。悲観的な気分になる。頭が重い、食欲が低下した、体重が減った、眠れない。

身体表現性障害:自律神経失調症など。身体的には異常がないのに物忘れ、頭痛など

上記3疾患で6割を占めます。当院にいらっしゃる方も、ほぼこの3つになります。

精神科との違いは?

同じような疾患に対応しますが、日常生活を営むことが難しい人は精神科を、働きながら感じるつらさの治療には心療内科が適しています。また、躁うつ病、統合失調症、摂食障害(拒食症)、小児のうつ病などは精神科の方が良いと思います。場合により入院をしながら薬の調整をすることが多いからです。

私の病気は精神からきている?と思っても精神科へ受診することへ抵抗がある方が多いと思います。まずは心療内科や、精神的な治療に慣れている内科を受診するのがハードルが低いのかなと思っています。また、肉体的な疾患と精神的な疾患は複雑に絡み合うため、 精神的な治療に慣れている内科が一番良いと思っています。

現在クリニックには毎日1~2名の心療内科領域の患者さんが新規で来院なさっています。その中には、お話を聞いてアドバイスをするだけにする方、少量の薬を使う方、しっかりと処方をする方、色々です。また、1剤で主なコントロールが出来ないような状態の際には精神科に行くことを勧めています。

心療内科の治療には、患者さんの生活スタイルが大きなウエイトを占め、英会話教室のように通いながら少しずつ生活スタイルが整っていくことで改善するため、しっかりと話の出来る医師を選びましょう(本P.26より。良い言葉だなと思いました)

どのような症状?

・不安障害(パニック障害など)

 突然不安がやってくる、その不安がいつやってくるのか不安でパニックになる、という病態です。閉鎖空間にいるときに生じやすく、広場恐怖症と言われます。”広場”に対するものではなく、”閉鎖空間”に対する恐怖ですが、日本語訳が悪いため、理解されにくいです。トンネルの中を車で走行している時に恐怖を感じる、電車に乗ると息苦しいなどです。

また不安・動悸がやってくるのではないかと考えるとパニックになります。数駅電車に乗ると苦しくなる場合に、”またやってくる”と思うのではなく、”数駅乗ることができた”と思うように認識を変えていく必要があります。そして”できた”という思いを積み重ねていくことで改善していきます。その手助けをするのが抗うつ薬や抗不安薬です。

実はこの考え方は特殊なものではありません。”腰痛”は非常に一般的な病気ですが、1年後に腰痛が改善している人は僅か半分しかいないというデータがあります。これは、”歩くと痛くなる”という記憶があり歩こうとしない ⇒ 筋力が低下して、さらに腰に負担がかかる ⇒ 痛みが抜けていかない と言われています。これをよくするのは”歩くと痛くなる”という思いを、”今日は痛くなるまでに~メートル歩けた、明日は∔5メートル歩いてみよう。痛くても歩くことはできる!”という思いに変え、歩くことで改善するといわれます。腰痛が不安になったのが不安障害であり、非常に一般的な病気なんです。

※抗うつ薬の一つであるサインバルタ(薬の分類ではSNRIともいいます)は腰痛改善薬として主に整形外科で処方されています。

・気分障害(うつ病)

 気分が塞ぐ状態です。睡眠の質が悪化し、途中で目が覚めます。途中で目が覚めたときに、二度寝できずに朝を迎えます。そして朝は頭痛を感じたり、起きたくない、動きたくないと感じます。途中で目が覚めること、朝が不調であることが、うつ病の大きな特徴です。さらに、何もやりたくない(テレビを見ない、友達と遊ばない)、集中力がなくなった物忘れが目立つというのも症状です。ネガティブな感情に支配され、場合により死を選びます。クリニックを受診する方の3人に1人くらいは”消えてしまいたい”という思いがあります。その思いが強くなると自殺を選びます。

 ネガティブな感情を打ち消す必要があります。まずは、休養をとることが重要です。ストレスに押しつぶされ、体の中のエネルギーがなくなった状態なので、ストレスから離れたところで心のエネルギーを充電します。そして、”出来ない自分”を見つめるのではなく、”出来ていることを受け入れる”ことを繰り返し、ポジティブな思考に変えていきます。その助けとして薬を処方します。

 転居、転職、結婚など、決断を伴うことは、必ず心に負担になるので、そういうことは先延ばしにしましょう。ネガティブなときに判断しても良い結論を導くことはできません。

 1~数か月休養をすることで、エネルギーが充填されます。そして仕事をしようという思いが自然と沸き上がります。湧き上がってきたら仕事に戻ります。このタイミングを急ぐと、再度挫けてしまいます。平均すると3か月程度で落ち着きます。慌てずにしっかりと休養を取ることは、早めに落ち着くことにつながります。ここで長引くと、数年単位での闘病になってしまいます。

 改善していく途中で、精神は波を描きます。徐々にポジティブな思考になると、仮に沈んでも次の浮きに変えることができるようになります。こうして徐々に波が小さくなり、落ち着いていきます。しかし、中には再度大きな鬱になる方もいます(2年以内に2人に1人は再発します)。その場合には長期にわたって薬を飲む方が良いとされます。

 ご家族はただ見守ること。特に何も声をかける必要はありません。ただ休んでいるだけで楽そうに見えますが、本人が一番つらく頑張っています。頑張れ!と言われなくても頑張っていますし、こういうことをしたら?と言われなくても試行錯誤をしています。休みながら、自らと向き合って、徐々に感情が変わっていくのを待つしかありません。家族はただ優しく見守りましょう。

※うつ病もひどくなると、家から出ることができなくなったり、死にたい思いに支配されるようになったり、色々な妄想が出現します。このような重度のうつ病は入院した方が良いことが多く、精神科で加療を受けるべきです。

・身体表現性障害(自律神経失調症)

 動悸、息切れ、倦怠感、頭痛などの不定愁訴が続く状態です。いろいろな訴えになるような検査所見の異常を認めないとき(動悸があるが心電図が正常など)に、自律神経失調症と称することが多いです。自律神経を測定することはできず、この病名は”検査をしても異常のない不定愁訴”に対する病名です。

 大きなこと、命に係わることは起きていないことを伝えることが治療の最初のステップです。薬を飲んでいくことで、”自分は病気がある”という思いになり、むしろ治らないこともあります。最低限の薬剤で経過を見ていきます。

・過敏性腸症候群

 ストレスによりお腹の動きが不安定になり、便秘、下痢、腹部膨満などの症状をきたします。そして排便をすると症状が改善することが多いです。内視鏡などで検査をしても異常がないですが、症状を有してしまう状態を過敏性腸症候群と言います。過敏性腸症候群は広場恐怖(電車の中や会議中に便意が来る)や鬱病を合併していることが多いです。軽い症状を含めると、人口の15%程度はこの病気を有していると言われます。

 整腸剤や便通を落ち着かせる薬を使います。根本のストレスや広場恐怖・鬱病などを改善するために、抗うつ薬や抗不安薬を併用して治療をします。

・不眠症

 不眠症は、眠れない(入眠障害)、途中で目が覚めて眠れなくなる(中途覚醒)、朝早くに目覚めてしまう(早朝覚醒)なぢがあります。中途覚醒はうつ病の一症状であることが多いです。

 治療として睡眠薬を使用します。睡眠薬内服時は、①眠る直前に飲むこと、②決められた量を飲むこと、③アルコールと一緒に飲まないこと、このルールを守って服薬しましょう。

治療は?

薬物治療も必要ですが、それよりも認知療法が必要になります。ネガティブな発想を切り替える、完璧主義を和らげる、少しずつストレスに体をならす、などです。来院頂いたときに少しずつご案内します。

抗うつ薬を内服することに抵抗感がある方も多いと思います。薬は、治るまでの期間を短くし、また症状を軽くするため、内服することが勧められます。

内服中に妊娠してもよいのか?。基本的には薬を中止できるほどに安定してから妊娠するのが望ましいです。

薬を服用する際には、のみ忘れをしないこと(仮に風邪を引いても、他の薬を飲んでいても、基本的には服用を続けます)、決められた量を飲むこと、アルコールは基本的には飲まないこと(睡眠薬や抗不安薬の効果を高めたり弱めたりします)、受診をしっかり続けることが重要です。

最後に

現代はストレスが多く、またストレスをためやすい(吐き出せない)時代です。そのため、精神的につらくなってしまう方は増加しています。これは病気なのか?薬を飲むべきなのか?内科疾患?、色々と疑問があると思います。悩んだらまずはクリニックにいきましょう。お話をしっかりと聞いた上で、適切な判断をしていこうと思っています。