抗不安薬や睡眠薬について

昨今、抗不安薬や睡眠薬の危険性について、新聞に記載されることが増えました。https://gendai.ismedia.jp/articles/-/50627

そのことについて記載します。

睡眠薬の致死性について、過量内服について検索されて、このページをご覧いただく方が多いですが、 一般内科医としての睡眠薬、抗不安薬への知識と理解してください。

①抗不安薬とは

 ベンゾジアゼピン系抗不安薬といいます。ベンゾジアゼピンは、中枢神経の神経物質の働きを抑制する物質を増強し、結果として脳の活動がスローダウンします。

過度な不安や緊張が和らぎ、穏やかになる薬です。

薬としては、デパス(エチゾラム)、ソラナックス(アンプラゾラム)、リーゼ(クロチアゼパム)、ワイパックス(ロラゼパム)、セルシン(ジアゼパム)、メイラックス(ロフラゼブ酸エチル)などが有名です。

薬の副作用として、依存性が問題になっています。体が慣れ、徐々に効果を感じにくくなることがありますが、増量していくと依存性がより増すとされています。抗不安薬は一時的に使用する薬剤とされ、長期にわたって使用する場合には抗うつ薬(SSRI)への切り替えが必要です。

デパス

精神的な緊張のみではなく、身体的な緊張感を取るのに優れている薬剤です。

そのため、肩こりにも効果があります。一方で薬を服用して数分で身体的な脱力感を感じることができるため”依存”しやすい薬とされていること、脱力に伴い転倒のリスクが増すことから、漫然と使用するべきではありません。

リーゼ

抗不安効果は弱く比較的安全であり、(精神科・心療内科を得意としない)内科として処方することが多いです。

ソラナックス、ワイパックス

抗不安効果が強いです。持続時間は4時間くらいです。効果や作用時間などが丁度良く、僕は良く処方しています。

メイラックス

非常に強い抗不安効果があります。しかも持続時間が長いため(約半日)、非常に強い眠気が来ます。そのため、ソラナックスで効かないときに処方します。

セルシン

注射剤、坐薬などがあり、けいれんを抑える薬としても良く使用されます。また胃カメラをする際の鎮静剤として使用されていることも多い薬剤です。依存性も強いため、内服薬として定期的に使用することは稀です。

②睡眠薬

不眠症は、非常に患者さんが多い疾患です。成人の30%が不眠症を有しているとされ、5%程度が常に処方を受けていると言われています。「何時になったら電気を消して眠らないといけない」といった思いが不眠を一番悪化させると言われており、認知行動療法といった生活習慣の改善や考え方の改善が基本になります。それでも改善しないなら睡眠薬を使用します。

昔の睡眠薬は依存性が強く、また高用量で死に至るため、危険とされました。その時の主流とされた睡眠薬はバルビツール系と呼ばれているもので、現在では睡眠薬としては殆ど使用されていません。

その後、危険性のないベンゾジアゼピン系(抗不安薬と同じ)や、さらに危険性のない非ベンゾジアゼピン系睡眠薬というのが開発されました。現在使用されている薬は、過量内服をしても死に至ることはないです。数百錠服用しないと致死量に至らないため、その前に眠ってしまいます。

薬剤としては、マイスリー(ゾルピデム)、アモバン(ゾピクロン)、ルネスタ(エスゾピクロン)、レンドルミン(ブロチゾラム)、リスミー(リルマザホン)、ロヒプノール(フルニトラゼパム)が有名です。

<睡眠導入剤>

マイスリー、アモバン、ルネスタなどは超短時間型といわれ、2~3時間程度で効果が薄れてます。いわゆる睡眠導入剤です。 効果のある時間は”半減期”、つまり薬が半分に減量するのにかかる時間です。つまり、睡眠導入剤は、効果を認めるのは(薬が半分以上体に残っている)2~3時間、そして体から完全に抜けるには6時間程度必要です。そのため、睡眠導入剤を内服した場合、内服から6時間程度は頭が余り回っていない状態であると言えます。

<短~中時間型睡眠薬>

レンドルミンは短時間型で効果は6時間程度(体に残存するのは12時間程度)サイレースは中時間型で効果12時間程度(体に残るのは24時間程度)です。サイレースは良く効きますが、体に薬が24時間程度残るため、常に薬が体内に残っている状態に至ります。

<抗うつ薬>

眠れないからと内服錠数を増やすことや、効果の長い薬に切り替えることは、常に睡眠薬が体に残存して頭を眠らせている状態になるので、良くないですよね。

もしも睡眠薬の薬剤効果が悪い場合には、薬を増量するのではなく、抗うつ薬(SSRI)を追加した方が安全で効果も高いです。例えば、デジレル(トラゾドン)、テトラミド(ミアンセリン)という眠気の強いSSRIや リフレックス(ミルタザピン) は高齢者でも安全に睡眠を引き起こすことができるとされます。漫然と睡眠薬を飲むよりも、これらの薬剤の方が安全に効きます。

とくに睡眠障害の中で、”中途覚醒(夜中に目が覚めて数時間眠れなくなる)”を認めている場合には、その背景に抑うつ状態が潜んでいますので、睡眠薬の漫然処方はただ危険なだけです。そのため抗うつ薬(SSRI)が主たる薬剤になります。

※新しい世代の睡眠薬

安全とされる睡眠薬が昨今発売になっています。  ベルソムラ(スボレキサント )、ルネスタ(エスゾピクロン)、ロゼレム (ラメルテオン) などです。特にベルソムラやロゼレムは、睡眠リズムを整える薬です。副作用が軽微であることがメリットですが、正直余り効きませんので、すでに他の睡眠薬を服用している方を切り替えると眠れないと仰ります。睡眠薬を飲んだことがない方、睡眠薬の副作用が怖いという方は試す価値があります。特に安全とされるロゼレムで睡眠状態が整うのであれば、最も副作用なく長期に服用できます。ロゼレムは数週間かけて眠りの状態を整えていく薬ですので、じっくり試す必要があります

③薬の致死量について

当ホームページを検索する際に、「フルニトラゼパム 致死量」という検索からいらっしゃる方がいるので、致死量について記載します。現在使われている安定剤、睡眠薬の過量摂取により死去に至ることは殆どありません。ただし、フルニトラゼパム(商品名 サイレース)は致死性が高いので注意が必要です。海外では、依存性の強さや致死性から、フルニトラゼパムは医薬品として認可を受けていない国がありますので、持ち込む際にも注意が必要です。フルニトラゼパムを使用した昏睡強姦は以前から報告されており、2015年に犯罪抑止のために薬剤が着色されています(青色になります)。一部のジェネリックは着色されていないなどの問題がまだあります。フルニトラゼパムは、先発品の製品名として、”ロヒプノール”という薬剤が以前にはありましたが、販売中止となりました。強い催眠効果や依存性・致死性も問題、犯罪に使用されることから、今後処方に制限がかかるのではないかと思っています。

なお、睡眠薬や向精神薬を使用した昏睡強姦や事故は以前から報告があり、知識のある医学生や薬学生が捕まった事件など複数あります。非常に危険な行為です。やめましょう。

<サイレース販売元のエーザイの注意喚起>

※フルニトラゼパムの着色について、 秋津鴻池病院 薬剤部 の情報が非常にわかりやすいので、リンクを貼っておきます。http://www.kounoikekai.com/cgi-bin/CMS/data/img//DI27.10.pdf

フルニトラゼパム以外の、内科で一般に処方されている薬の場合、死に至ることは殆どありません。死に至ることはありませんが、長期間眠ってしまうことで大きな問題になります。睡眠薬の過量摂取により、長期間寝返りを打たずに寝続けてしまい、その結果、筋肉へ血流障害を生じてしまい、四肢切断や背中の筋肉が壊死してしまった方を複数名拝見しました。現在の薬は、安全性を重視されています。主流となっている睡眠薬(マイスリーやリスミー、レンドルミンなど)は致死量150錠程度とされ、致死に至る前に睡眠に至り、結果として重度の障害を生みます。そのため、安定剤、睡眠薬の過量摂取は避ける必要があります。

繰り返しますが、安定剤・睡眠薬の過量摂取は、「眠るように死ぬことができる」ことは全くなく、目が覚めたときに苦しい現実(下肢切断など)が待っていますので、内服量はしっかりと守りましょう

まとめ

クリニックを開院して約1か月。周囲の内科クリニックで睡眠薬を貰っていたが、もう処方できないと言われたという方。もともと不眠だったけど、相談できていなかった方。そして育児を初めて、そのストレスで全く眠れなくなってしまったという方が週に1~2名新規で御来院頂いています。

<処方の実際>

入眠障害→睡眠導入剤マイスリーを主に処方しています。

肩こり&入眠障害→安定剤のデパスを処方しています。

入眠障害&中途覚醒→レクサプロ(抗うつ薬)+マイスリーか、リフレックスを主に処方しています。リフレックスは非常に眠りが良くなりますが、内服開始数日が非常に眠くなるため、仕事の影響などを相談してどちらかを処方しています。

不安障害→レクサプロ(抗うつ薬)+安定剤(ソラナックス)の頓用を主に処方しています。安定剤のみで不安を取っていくと副作用が大きくなりますので、Base薬として抗うつ薬を使用します。

皆さん、良く効くようで、2週間後に再診でお会いすると非常に明るい表情をしています。

<処方上の注意>

安定剤や睡眠薬は、過剰摂取を防ぐ観点から、30日制限の処方制限が入ります。長期処方はできません。また、複数の医療機関から睡眠薬を貰う方がいます。最近は薬局でのチェックや、レセプトチェックにより、複数の医療機関を受診して薬を多くもらっている場合には把握されます。把握されると、「〇年〇月〇日生まれの○○さんが複数医療機関から薬をもらっているので処方しないように」という通知が各医療機関に流れることになっています。また薬剤師のネットワークで薬局にも同様に情報が流れます。月に1~2名FAXが流れてきます。過量摂取は”依存症”という病気になりますので、精神科での入院加療が必要です。

※複数医療機関での受診とは何箇所なのかという問い合わせを頂きました。二箇所から重複して処方を受けると、薬剤師会を通じて薬局に通知がいくようです。また二箇所の医療機関から医師会に報告が上がると、市内の医師会所属の全ての医療機関に通知がいきます。翌月になると医療機関がレセプトを提出しますが、その際に社会保険組合などが全体のチェックをします。この際には複数の医療機関、薬局などを調べますので、重複処方は見つかります。みつかると、組合を通じて患者さん宛に通知が入ります。つまり、重複処方は原則受けることができないように取り組みがあります。睡眠薬、抗不安薬の依存が社会問題になってきていますので、しっかり把握されます。

なお、情報の取りまとめは医師会や薬剤師会が実施しており、だれが要注意としてチェックされているのかは分かりません。各医療機関は、疑わしい方を報告する義務があります(保険診療の上での取り決めです)が、その先で情報がどうやって処理されているのかは分かりません。

重複処方でブラックリストに載っているのかどうか、当院に問い合わせを頂いても、当院に情報はなく、お答えできません。問い合わせは医師会やかかりつけのクリニック・薬局にお願いします。重複者リストに入っているのかを気にするのではなく、”重複して内服していることは依存症という病気であり、かかりつけの精神科で相談してください”ことを強調しておきます。

「前のクリニックで貰っていた睡眠薬をほしい」という希望があった場合、薬手帳を見なければ処方は出来ません。

飲酒について。飲酒をした際には、安定剤・睡眠薬共に服用しないでください。

最後に

家で苦しむより、一度クリニックで相談しませんか?

4件のコメント

  • 毎日マイスリーとハルシオンとデパスを飲んで寝ます、もう5年目ですかね。そろそろ楽になりたいです

    • その3剤ともに、短時間型の睡眠導入剤になります。薬を変更するのも良いのかなと思います。

  • 85才の母が、5年程前から、デパス0.5mg、ハルシオン0,125mgを服用しています、先月より不眠が解消されないと医師に告げたところ、ベルソムラ10mgを処方され、現状3種服用しています。量的に心配なのですが、いかがでしょうか。ご意見お願い致します。

    • ご年齢を考えると、睡眠薬は少ないほうが望ましいです。しかし、内服しないと眠れないという方が多く、実際には服用なさっている方がたくさんいます。睡眠薬を服用なさると転倒のリスクが増す、認知症になる危険性が増すと言われており、それを御理解の上で継続するしかないと思います。追加になったベルソムラは高齢の方でも安全に使用できる薬剤の一つですので、ベルソムラ追加で眠ることができるのであれば、それで良いと思います。

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